Intermission Part2


 近寄ってくるレノの姿に、カダージュは言いようのない疼きを感じた。
 動悸が速い。頬が火照る。
 身のうちに渦巻く熱が、一ヶ所に集束し始める。
 身体にぴったりとしたレザーのスーツが局部に食い込んで痛い。

 ―――こんな感覚は、初めてだ。

 腰に巻いていたバスタオルを取り去り、レノは堂々と全裸でカダージュの前に立ち、そしてやや潤んだ目で自分を見るカダージュを見下ろした。
 呆然とするカダージュの目の前に、屹立したレノのモノが晒される。驚きに見開かれた目は瞬きすることも忘れ、ただそれに魅入るばかりだ。
「なぁ、社長はおまえにどんなことしてくれた?」
「ボクの……さわって……舐めた……」
「ふーん。気持ちよかったか?」
 ぎこちなく頷くカダージュは、レノの質問に答えながらも目は彼の性器に捉えられたまま動かない。
「で、おまえはちゃんと社長も気持ちよくさせてやったのか?」
「気持ち、良く……?」
「社長のも舐めてやったりしたか? それとも、一方的に自分ばっかり気持ちよくしてもらうだけだったのか?」
「え、あ、だって、社長がなにをしたいのかわからなかったんだ! 社長がしてくれたことは全部ボクの知らないことばかりで、ビックリしてどうすればいいのかわからなかったんだ!」
 まるで叱られた子供のように、カダージュは昨夜の自分の行動をレノに言い訳する。
「セックスってのはな、ひとりでするもんじゃねえ。2人でするんだ。お互いに相手を気持ちよくさせてやるんじゃなきゃ、センズリと同じなんだぞ、と」
 人間の行為には多々例外があることを、レノは意識的に省いた。3人以上でやることもあれば、自分の快楽だけを追求する場合もあるが、目の前の思念体の筆下ろしの相手をしたのがルーファウスだとわかった今、ノーマルでないセックスは教えるべきではない(男同士の性行為がはたしてノーマルと言えるのかどうかも、この際除外した)。
 彼らに次のチャンスがあるかどうかはわからないが、社長に快楽を与えることができないなどというのは許し難い。
 社長の方から誘ってくれたのに、という微妙な嫉妬心と、(俺なら、弄りまわして舐め倒して「もう許せ」と泣いて懇願されるまで達かせまくってやれるのに)などという妙な対抗意識まで芽生えてくるレノだった。
「気持ちよく、って……どうすればいいの?」
「妙に素直じゃんか、思念体」
「だって、わからないんだ。剣や魔法の使い方は知っていても、昨日みたいなことは初めてだったんだ。社長がボクにしてくれたことも、ボクの目の前で社長がやったことも……なにもかも知らないことばかりだったんだ」
 しゃちょーーー! こいつの目の前でいったいどんなショーをやって見せたんですかーーーー!! ちくしょーー、俺も見てえぇーーーー!!!
 レノの脳内で、大股広げてオナニーショーを繰り広げるルーファウスの姿がはっきりと再生されている。その想像が大きくはずれているわけではないことを、レノが知らないのはルーファウスにとって幸いだ。
「社長に聞こうにも、なんだかすごく辛そうでぐったりしちゃって、すぐに眠っちゃったんだ。だけど気になって……」
「で、俺のとこに来たのか」
 必死の言い訳のせいでやや涙目になったカダージュは、媚びるようにレノを見上げてからこくりと頷いた。

「ようし、このレノ様が人間のセックスというモノについて、とことん教えてやるぞ、と。ちゃーんと身につけて、社長を悦ばせてやれよ」
 次の機会があれば、だが。

 腰に手を当てて仁王立ちで宣言するレノを見上げ、カダージュは唇をきっと結んで力強く頷いた。
 まるで体育会系にしか見えない男2人の性の特訓は、まず後輩が先輩に倣って全裸になるところから始まった。


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 弄る。舐める。転がす。咬む。握る。剥く。吸う。撫でる。擦る。揉む。押す。引く。
 開く。上げる。挿す。捏ねる。裏返す。回す。

 脅す。賺す。宥める。煽る。
 喘ぐ。叫ぶ。呻く。唸る。驚く。堪える。

 啼く。泣く。
 強請る。焦らす。

 達く―――


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「どうだ、これでフルコースだぞ、と。ちゃんと覚えられたか?」
 偉そうな台詞を吐きつつも、全身汗まみれで大の字にベッドに転がったレノは大きく胸を上下させている。
 時間をかけて施したカダージュへの性教育実習は、慣れない男同士ということもあり、ほぼ体力勝負だった。そこに性的快楽を覚えさせる必要上、モンスターとの戦闘よりもよほど頭と体力を使ったと言っても過言ではない。
 一方、レノに精魂込めてセックスのテクニックをたたき込まれたカダージュの方はといえば、こちらは完璧に精根尽き果てていた。
 病身のルーファウスとは、レノの体力と持続力は比較にならない。おまけにレノの私怨もあって女役の方をやらされたのだ。昨夜とは違う快感を、それこそリミットを振り切るほどに与えられ、カダージュは心身共に疲弊しきっていた。
「ちゃんと返事をしろよ、思念体。声も出せないぐらい良かったのか?」
 ぶつけられるレノの言葉に反論する気力もない。だがクラウドに負けたときよりも身体が思うように動かせない。体力が果てたというよりは、身体の中に蟠る熱と余韻が冷めず、むしろもっとその余韻に浸っていたいと思ってしまったためだった。
「気持ち、良かった……」
「そうだろうそうだろう。俺にかかれば、処女だろうが娼婦だろうが男だろうが、みんなメロメロなんだぞ、と」
 素直な褒め言葉に気をよくしたレノは、嬉しそうに破顔して片肘をついて上体を起こし横にいるカダージュを見た。
「セックスってのは、気持ちいいもんなんだ。敵やモンスターと戦って勝つのも興奮するけど、セックスの興奮はまた別モンだ。相手を達かせて、自分も達って、満足して幸せになるんだぞ、と」
「イって……満足……」
「おう。おまえ、社長をちゃんとイかせてやったか?」
 ほんの少し首を上げ何かを思い出すように宙を見て、それからゆっくりと視線を伏せる。やや沈んだ色を映しながら。
「まあ、社長も男とやるのは初めてだったってんなら仕方ないぞ、と。次のときにはちゃんと達かせてやれよ」
「できるかなあ」
「だーいじょぶだって! 今俺がおまえにしてやったのと同じように、おまえが社長にしてやれば絶対達かせてやれるんだぞ、と!」
 短い間、少し不安そうにしていたカダージュは、やがてひとつ大きく深呼吸をすると腕を振って弾みをつけて起きあがった。
「わかった! やってみるよ!」
「よっしゃ! うまくいったら、報告に来るんだぞ、と」
「うん! ありがとう、あんた、いい人だね」
 にっこり笑ってそう言うと、カダージュはてきぱきと身支度を調えてあっという間に窓から出て行った。

 なぜ窓から出て行く―――風のように姿を消したカダージュの気配は、今はもうレノの身体の中にしか残っていなかった。
「ああっ、もうこんな時間かよ! あああ、俺の貴重な休みが……」
 夜のヒーリンに、遊べるような場所はない。
 明るかった太陽が沈み、晴れ渡った空にはただ月だけが静かにそこに佇む―――


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(2007/2/1up)



→「 ピーク果てしなくソウル限りなく」 へ続く